
ロボット解放戦線【タロース】のリーダー的存在。全長5メートル、ロボット最大級の戦闘用機体でありながら戦いを嫌い、“ロボットにも人権を!”を合言葉に掲げる。
「落ち着け! オレたちが暴力を行使すれば、それこそ【C,R,C】の思うつぼだ!」
ILLUST / 叶奈
【リトー団】の党首。ただ歩くだけで眼前の障害すべてを破壊し尽くす、“災害”がごとき規格外に巨大なアーティファクトの魔族。
「奪われるのが嫌なら、抗う力を身に着けろ。それが出来ないのなら、這い蹲って逃げまわるといい」
ILLUST / 二条
ボロボロのコートを身に纏った2足歩行のキリギリス。不自然なほどに無気力で、【タロース】の活動を少し離れた場所から眺めているばかり。
「彼は……彼は何処に行ったんです?」
ILLUST / 撒菱.R雷鳴轟く黒い空。
稲光を背に雄々しく地に立つ巨大な魔族。
その大きさは10メートルを超えていた。ただ歩くだけで、建物や道や、或いはその眼前にある障害のすべてを破壊し尽くす“災害”のような魔族である。
「お前は……お前は、何がしたかった!!」
金属の身体が雨に濡れることも厭わず、556号は咆哮した。
556号は【アルカナ】を得て、自我を獲得したロボットである。雨に濡れれば、金属の身体は錆びつくし、回路の調子も悪くなる。だが、今はそんなこと気にしているような余裕はなかった。
リトー。
556号が隠れ家にしていた港の造船工場を襲撃し、破壊し尽くした“災害”がごとき規格外に巨大なアーティファクトの魔族。
船の残骸を踏み潰しながら、何処かへ立ち去るリトーに向けて556号は問いかける。
「この工場はオレたちの隠れ家だったんだぞ! それを! なぜ! なぜ破壊した!」
556はロボットだ。
その全長は5メートルにも及ぶ。間違いなく、ロボットの中では最大サイズ。装備されている武装や、エンジンの出力も並のロボットを凌駕していることだろう。
そんな556号であっても、リトーの巨躯を前にしてはまるで小柄なように思えた。大人と子供のようである。
じろり、と556号を見下ろすと、リトーは低く唸るような声で答える。
「……なぜ? 強いて言うなら、道具や資材が必要だったからだ」
「そんな、ことで……っ」
「そんなこと? では、なぜ貴様らはこの工場を拠点にしていた?」
それは破損した身体の修繕やメンテナンスに、道具や資材が必要だったからだ。556号たちロボットと、【リトー団】の間にどんな違いがあると言うのか。
「……っ」
556号は答えられない。
破壊された工場から、資材や道具が運び出されていく様子を黙ってみていることしかできない。
抗えば、556号は破壊される。
仲間たちも踏み潰される。
だから、何もできない。悔しさを噛み締め、金属の拳を硬く握りしめていることしかできない。
「奪われるのが嫌なら、抗う力を身に着けろ。それが出来ないのなら、這い蹲って逃げまわるといい」
この日、556号は……“ロボット解放戦線”【タロース】は、リトー団に敗北した。
“ロボット解放戦線”【タロース】。
自我を獲得したロボットたちによる独立組織だ。
その活動目的は「ロボットの人権と独立を認めさせる」こと。
人間に支配、利用されているロボットの現状を憂い、日夜デモを行ったり、人助けに出向いたりしてロボットの立場向上を目指すが、今のところ大きな成果は出ていない。
「もうやってらんねぇ! 悪いが、俺は抜けさせてもらうぞ、556!」
崩壊した工場に、ノイズ混じりの怒声が響いた。
運んでいた鉄骨を投げ捨て、556に詰め寄っている“ボロボロの”ロボットだ。片腕の装甲は失われており、コードや歯車が剥き出しになっている。
そのロボットの名は404号。
昨夜の【リトー団】襲撃の際、556号の制止も聞かず魔族たちに立ち向かった勇猛果敢なロボットである。もっとも、結果は散々なもので【リトー団】は幹部、アルフォンスに殴り倒され、片腕に大きな損傷を負った。
ロボットの性能は、並の魔族に負けていない。とはいえ、流石に【リトー団】の武闘派幹部が相手とあってはタイマンで敵うはずもなく。
「なぜだ、404! 工場は修繕すればいい! 人間の中にも、オレたちに賛同してくれる者だって現れ始めている!」
「多少、賛同者が増えたからってなんだってんだよ! 現実を見ろ、556!!」
556号の腕を振り払い、404は怒号を放つ。
「俺らが幾ら“平和”だの“独立”だの叫んだところで、容赦のない暴力は止まらない! こっちが降参すりゃ、殴るの止めてくれんのか!? 愛と平和を叫んだぐらいで争いが無くなるんなら、戦争も差別もとっくにエンタメになってるはずだろうが!!」
「落ち着け! オレたちが暴力を行使すれば、それこそ【C,R,C】の思うつぼだ! ロボットは危険だなんて大義名分を掲げて、オレたちの権利を奪いにかかるぞ!」
白熱した議論。だが、平行線のまま交わることは無い。
自我を、意思を獲得したことにより生じた意見の相違、思想の衝突。図らずも556号は、相互理解の難しさを実感することになる。
「そもそも、その権利がねぇって言ってんだよ! 知らねぇのか、ロボット三原則を!」
「あんなもの人間が勝手に言っているだけだ!」
「話になんねぇ。それで何人の仲間が【C,R,C】のロボット狩りにやられたよ……戦わなきゃ、守れねぇもんがあるってことを理解しろ」
理想だけじゃ、誰も救えねぇんだよ。
そう言い捨てて、今度こそ404号は工場を出て行った。
それっきり1度も、556号の方を振り向くことも無いまま。
「…………」
その背中に手を伸ばし、けれど556号はもう何も言えないでいる。理想を語って何が悪いのか。そんな想いだけが、“脳”の中でぐるぐると渦を巻いていた。
「彼は……彼は何処に行ったんです?」
立ち尽くしたままの556号に、声をかける者がいた。
ボロボロのコートを身に纏った2足歩行のキリギリス。インセクターの魔族、ハディナ=ケイティディドである。
このハディナという魔族、過去に何があったのか不自然なほどに無気力だ。大阪湾の辺りをうろうろしているところ556号が発見し、成り行きで一緒に行動してはいるけれど、何かを手伝うような素振りさえ見せようとしない。
デモを行い、ボランティアに精を出す【タロース】所属のロボットたちを、少し離れた場所から眺めているばかり。
こうして声を聞くのさえ、随分と久しぶりのように思える。
「おそらく大阪だろう。【死ん世界党】という魔族たちが、人手を募集しているらしい」
「……【死ん世界党】」
ぼそり、とハディナはそう呟いた。
「
どこまで信用していいものか。
つい昨日だって【リトー団】という魔族たちに、住処をめちゃくちゃに壊された。ハディナのように無害な魔族もいるのだろうが、比率で言えば圧倒的に“危険”な魔族の方が多いに違いない。
「ハディナくんも……いや、いい」
言いかけた言葉を飲み込んで、556号は地面に散らばっていた鉄骨を拾い集める。
今は、一刻でも早く工場の修理を済ませるべきだ。
それから、その後はボランティアにでも出かけよう。
「さぁ、忙しくなるぞ」
自分自身を鼓舞するような言葉を呟き、556号は仲間たちの元へと向かう。
ハディナは黙って、その背中を見送っていた。