
【ネオ死ん世界党】の人間界攻略現場担当。齢300を超えるシンジュサンのインセクターの剣士。狙うは強敵との一騎打ち、そしてとにかく首がスキ。結果として独断専行に走ることも。
「ぬ? なかなかの腕前であるな」
ILLUST / カラノハ
【悪路衆】の党首。艶やかな狐の尾を持つ妖艶なワークリーチャー。見慣れない人間界の建物に興味津々。
「皆、戦闘準備を! 人間界での初戦、敗北することは許されないわ」
ILLUST / 二条
ヴァンパイア種の集団【悪徳組合】が党首。血色の悪い男装の麗人。争いではなくスカウトのために人間界へ。
「ボクらは何も争いに来たわけじゃないんだ。むしろ、キミたちをスカウトしに来たんだよ」
ILLUST / 二条
一足早く人間界へ渡った悪党集団【Wild Bunch】の頭目。アウトローかぶれの、かぼちゃ頭のドライアド。
『人間界侵略の先達として福岡を案内してやるよ。相応の謝礼を準備しとけ』
ILLUST / 二条荒廃した福岡に、エンジンの音が鳴り響く。
濛々と土埃を巻き上げながら、博多駅前に集まったのはバイクにまたがる一団だった。
「何事である? 見たところ
胡乱な目をして刀を抜いたミツルギが、ぐっと身体を前のめりに傾けた。腰の位置に構えた刀が、太陽の光を反射して“ぬらり”と怪しい輝きを放つ。
「おーっと、待つっすよ!! ジャックのアニキから訊いてた通り、死ん世界党ってのはマジに喧嘩っ早いっすね!」
バイク集団の先頭にいた桃色髪の若い女が、今にも斬りかからんとしていたミツルギに“待った”をかけた。なお、バイカー集団の中で彼女だけが
「ふむ」
「おわぁぁぁっ!? 待てって言ったっすよ!!」
若い女の制止の声をまるで無視して、ミツルギは躊躇なく斬りかかる。その凶刃が女の首を落とす寸前、間に割り込んだ人間の男がミツルギの斬撃を受け止めた。
「ぬ? なかなかの腕前であるな」
男の手には鉄パイプ。よく使い込まれているようで、あちこちがボコボコに凹んでいたし、何やらよく分からない黒い染みも付いている。
「……魔族ヤバいっす」
スクーターの傍に尻もちをついたまま、若い女は目を丸くして冷や汗を零す。まさかいきなり殺されそうになるとは思わなかったのだ。
話通じなさすぎである。
「で? あんた……ベリー・スターはジャックの名代なんだって?」
ミツルギでは話が通じない。
そういうわけで急遽、魔界から呼び出されたショコラーデは博多駅前の広場でベリー・スターなる若い
ベリー曰く、彼女はジャック……死ん世界党らより一足早く人間界へと渡ってしまった悪党集団【Wild Bunch】の頭目である……の名代として、博多駅を訪れたらしい。
「まぁ、名代って言うか、【Wild Bunch】の交渉役って言うか、伝言を託されたって言うか……お使いっすね」
「お使いじゃんかよ」
にやけた面のかぼちゃ頭を思い浮かべて、ショコラーデは溜め息を零した。
魔界統一戦挙の終盤、人間界と魔界を繋ぐ“門”が開いた際にジャックをはじめとした【Wild Bunch】の主要メンバーは人間界へと渡ってしまった。
その後、すっかり足取りが追えなくなってしまっていたが、どうやら福岡は中州を占拠し、人間界の軍勢と日夜戦いを繰り広げているらしい。
と、そこまではショコラーデも知っていた話だ。
【Wild Bunch】が中州を占拠してくれたおかげで、ショコラーデたち【死ん世界党】の一団は、博多駅を拠点化する作業に集中することが出来ているのだから。
「でも、あんたたち人間だろ? なんだって人間が【Wild Bunch】に加わってんだい?」
だが、解せないのはベリー・スターという若者。
本人曰く【Wild Bunch】の新入りらしいが、彼女はどう見ても人間である。
「うちら、ジャックのアニキみたいな本物の悪になりたいんっすよ。うちはただの不良っすけど、後ろの連中は“福神會”ってヤクザっす。今は【Wild Bunch】の党員っすね」
「ジャックから悪ぃ影響受けてるな。アイツ、本当にロクなことしない」
ジャックがアレなのは当然として、人間も思ったよりは愚かなのかな?
そんなことを考えながら、ショコラーデはじろじろとベリー・スターを観察する。ジャックたちに比べれば、随分と善良そうに見える。【Wild Bunch】と一緒に行動している辺りアウトローではあるのだろうが……まぁ、言ってしまえばあまり悪そうには見えないし、ついでにあまり強そうでもない。
「で、ジャックはなんて?」
「あ、そっすね。それそれ! アニキからの伝言っす。えー……“人間界侵略の先達として福岡を案内してやるよ。相応の謝礼を準備しとけ”だそうっすよ」
「…………」
要するに“金を寄越せ”ということだろう。
或いは欲しているのは食糧や武器、弾薬か。魔界の金など、今のジャックたちでは使い道などないだろうから。
なるほど確かに、ジャックたち【Wild Bunch】は人間界に詳しいのだろう。1年かそこらで博多から中州にかけてを占拠してしまうなど、侵略の手腕も本物である。
加えて【Wild Bunch】は魔界でも名前の知れた悪党集団。戦闘よりは略奪を得意とする魔族たちの集まりだが、かと言って戦えないわけじゃない。
むしろ党首のジャックなどは、人魔大戦のころから暴れ回っていた実力者である。
「
「? どしたっすか?」
不思議そうに首を傾げるベリー・スター。
桃色の髪が、顔の動きに合わせて“ふわり”と揺れていた。
「それがなぁ。実はもう【悪徳組合】と【悪路衆】が調査に出かけちゃったんだよな」
「え“!?」
「だからアンタら、急いで戻った方がいいよ。あいつら絶対、大人しくしてないからさ」
魔族による人間界進出は前途多難なようである。
同時刻。
博多駅から少し離れた位置にある、巨大な複合施設の前に魔族たちの集団がいた。
ワークリーチャーやインセクター、ヴァンパイアを中心とした魔族たち……人間界の調査任務に名乗りをあげた【悪路衆】と【悪徳組合】の一団である。
「随分と大きな建物ね。これは……城か何かかしら?」
建物を見上げる長身の女、名を狐珠妃という【悪路衆】の党首である。艶やかな狐の尾が左右に揺れている辺り、見慣れない建物に興味津々のようだった。
「違うんじゃないかな? ほら、あの辺は宿泊施設のように見えるよ」
建物の一角を指さしながらそう言ったのは、血色の悪い男装の麗人。ヴァンパイア種の集団である【悪徳組合】が党首、オリアナ・オリーブ。
なお、2人の言う巨大建築は“キャノンシティ福岡”という。福岡の中心部にある大型複合施設であり、宿泊施設や映画館、果ては劇場まで併設されている。
魔族の出現により放棄され、今ではすっかり行き場の無い
「おや? 誰か出てきたようだね」
「誰でもいいわ。どうせ敵だもの」
オリアナが指さした先、建物の入り口らしき場所から武装したヒューマンやアンヘル、ロボットたちの一団が現れる。
顔に焦りと不安、そして嫌悪感を滲ませてオリアナたちを睨んでいるのだ。近づけば容赦しない、とその目が口ほどにものを言っている。
狐珠妃は、まったく動じた様子もないが。
「皆、戦闘準備を! 人間界での初戦、敗北することは許されないわ」
好戦的な獣の笑みを滲ませて、狐珠妃は吠え猛るのだった。
“アルカナ”なんて得たことが、すべての不孝の始まりだった。
隠れることも出来なくなって、堕天使呼ばわりされ、同胞たちから追放されて、逃げた果てに辿り着いたのは、魔族と人間が日夜争い続ける修羅の国。
同じような境遇に落ちた
自分同様に“アルカナ”を得た
いつか生活が落ち着いたら、仲間たちを訪ねて旅をしてみよう。そんな想いを夢に描いて、何度の夜を超えたことか。
だが、それも終わり。
明日の朝日を拝むことは出来そうに無い。
狐珠妃とオリアナ・オリーブ。
何の前触れもなく“キャノンシティ”を訪れた2人の魔族と、その仲間たちは強かった。住む場所と仲間を守ろうと、必死に抵抗したけれど、奮戦虚しく血まみれになって地面に転がっているのが現状。
無念を抱えたまま、失意の底で死ぬのだろう。
あぁ、私の生きた時間に意味など無かったのだ。ただ無意味に生きて、ごみクズのように死んでいくだけの哀れな天使の一生は誰の記憶にも残らないのだ。
もう、眠ってしまおうか。
そうすれば楽になれるじゃないか。
そんなことを考えた、とある天使の目の前に1枚のチラシが落ちてきたのはその時だった。
チラシに描かれているのは、隊列を組んだ魔族のイラスト。紙面上部には「集え! 命知らずの
「……ば、バイト?」
なんだこれ? と思った。
そんな彼女の疑問に答えをくれたのは、他ならぬオリアナ・オリーブである。なお、彼女をぼこぼこにして地面の染み寸前にまで追いやったのもオリアナであった。
「読んだ通りだよ。キミたちは何か勘違いしているようだけど、ボクらは何も争いに来たわけじゃないんだ。むしろ、キミたちをスカウトしに来たんだよ」
オリアナ曰く、彼女たちが来訪した目的は概ね以下のようなものになるらしい。
1つ、魔族たちは“北海道”なる永久凍土の探索を計画している。
1つ、魔族たちのほとんどは福岡と大阪での活動があるため魔族手が足りない。
1つ、そこで魔族は人間界で燻っている“ヒューマンやアンヘル、ロボット”たちを雇い入れることにした。
と、そんな話であるらしい。
そこで博多駅付近の調査任務ついでに“北海道調査隊”募集のチラシを配りに来たのが、狐珠妃とオリアナとのこと。こう言っちゃなんだが、人選ミスではないだろうか。
「どうせキミたち、行く当てもないんだろう? だったら別に、ボクたち魔族に協力してもいいじゃないか。食べるものと住む場所と……あとはちょっとのスリリングな生活を約束してあげる」
食うや食わずのその日暮らしから抜け出したいなら、魔族の仲間になれという。
「ふざけ……ん、いや?」
人間界に敵対しろとでも言うつもりか! と、怒鳴りつけそうになったが、そこで天使の女性は少し考えた。
そもそもの話、仲間であるはずの人間や天使たちから追い回されての今である。
人間も天使も、どいつもこいつも【世界】のアルカナから弾き出された彼女を迫害し、追い掛け回したではないか。
まぁ、だからと言って魔族が親切と言うことも無いのだが。ジャックとかいうかぼちゃ頭の魔族のせいで、博多の治安は最悪だった。だって昼も夜も無く【Wild Bunch】の魔族たちが騒いでいるし、人間との戦闘だって日常茶飯事なのである。
なんでも最近は、大濠公園の辺りに人間たちが軍事拠点を築いたとか。そんなもの博多が戦場になる未来しか見えないではないか。
「……だったら、もう。自分たちで、どうにかするしかないじゃない」
暮らす場所も、食べる物も、ともに笑いあう仲間や友も、何もかも自分の力で得るしかない。さもなければ自分たちに未来はないと、天使の女は理解した。
「理解してくれて嬉しいよ。それならまずは、早く怪我を治さないとね」
心の底から嬉しそうな顔をして、オリアナなるヴァンパイアはそんな言葉を口にした。
怪我をさせたのはオリアナなのに。
強盗に「セキュリティが弱いよ?」と心配された気分である。どの口が何を言ってんのやら。文句を言うと、また酷い目に合わされそうなので口を噤む他に選択肢はないが。
これを世間では弱肉強食とそう呼ぶのである。
強者はすべてを手に入れて、弱者はすべてを失うのだ。命も、食糧も、尊厳も。失った何もかもを取り戻したいなら、必死に強くなるしかない。
「貴女も、ジャックも、私を見捨てた天使たちも……いつかぶん殴ってやるから」
最後に残った僅かな矜持を総動員して吐いた悪態。
涼やかな顔をしたまま、自分を見下すオリアナを必死に睨み返しながら。
天使の女は意識を失ったのだった。